電波にも鏡は使える?反射フィルムと散乱シートで5Gの電波の届きにくい場所を改善する実験
電波にも「鏡」のように反射させる材料があり、それを廊下に貼って電波を曲がり角の先へ運び、部屋の中では別のシートで広く散らす、という実験が発表されました。 基地局やアンテナを増やさずに、電波の通り道を設計して届きにくい場所を減らす発想です。
発表したのは、石川県工業試験場、積水化学工業、電気通信大学、情報通信研究機構(NICT)の4機関で、発表日は2026年10月7日です。この記事では、NICTの発表内容をもとに、何をしたのか、数字がどういう意味なのかを整理します。
実験の舞台と使った2つの材料
実験は石川県工業試験場の1階で行われました。5Gの基地局は1階のロビーに置かれ、会議室までの廊下と会議室の中が測定の対象です。
使った材料は2種類です。
| 材料 | 提供 | 役割 |
|---|---|---|
| 反射フィルム | 積水化学工業 | 電波を特定の方向へ、強さをあまり落とさずに反射する |
| 散乱シート | 電気通信大学・NICT | 電波の強さは下がるが、広い範囲へ散らす |
配置は次のとおりです。
- 廊下に反射フィルムを2枚置き、ロビーの基地局からの電波を廊下と会議室の入口まで導く
- 会議室の入口付近にもう1枚置き、電波を室内へ送り込む
- 室内には散乱シートを使い、会議室の中に電波を広げる
狙った方向へ運ぶのが反射、部屋の中に広げるのが散乱、と役割を分けているのがポイントです。
結果の数字「1%から95%」の読み方
測定は、工業試験場が開発した測定アプリの入った端末で行いました。会議室の奥行き5m、幅4.5mの範囲を、奥行き方向1m刻み、幅方向0.5m刻みで、床から1.7mの高さの受信信号強度(dBm)として測っています。
4.5GHz帯での結果は次のとおりです。
- 反射材なし:測定範囲のほぼ全域で−100dBmを下回った
- 反射材あり:測定範囲の全域で−100dBm以上になった
- 床からの高さが違う測定も含めて、−100dBm以上の領域の割合は、材料なしで約1%、材料ありで約95%
発表では、−100dBmは受信品質を判断する際の目安として使われています。
ここで注意したい点が2つあります。
- 「95%」は、この実験環境と、この判定基準での結果です。通信速度が95倍になった、日本の電波の届かない場所の95%が解決した、という意味ではありません
- 通信速度や遅延がどれだけ良くなったかは、今回の発表の範囲では確認できていません
まだ分かっていないこと
- 実験を行った日付は、発表の本文には書かれていません
- 費用がどれくらいかかるか、家庭のWi-Fiや別の建物でも同じように効くかは、確認できていません
- 「低コストで導入できる」は発表側の説明で、第三者による費用の検証ではありません
発表では、4機関は今後も産学官連携で反射材の活用を進め、産業用無線システムの市場拡大を目指すとしています。工場や倉庫のように、金属の棚や機械で電波が届きにくい場所が、最初の想定先と考えられます。
身近な話に引き寄せると
家のWi-Fiルーターでも、壁の向こうで電波が弱いことがあります。ルーターの位置を変える、中継機を置く、といった方法が一般的ですが、電波を反射させる材料で通り道を変えるというのは、別の選択肢です。ただし、今回の材料や効果が家庭用の周波数帯・環境でそのまま使えるかどうかは、確認されていません。
まとめ
5Gの電波が届きにくい場所に、基地局を増やす代わりに、反射フィルムと散乱シートで電波の通り道を作るという実験は、1つの環境で受信できる領域を約1%から約95%にしました。ただし、これは特定の実験環境での結果で、通信速度の向上量や費用、他の場所での効果は、これからの確認事項です。
参考にした情報
- 情報通信研究機構(NICT)「反射フィルム・散乱シートを用いた5G電波の死角改善に関する共同実験」(2026年10月7日公表)